2026-07-26 ・
日米市場 週間まとめ 2026年7月4週 — 利下げ期待から利上げ警戒への転換
2026年7月17日終値から7月24日終値までの日米市場を整理しました。原油の急騰を起点に、7月29日の米連邦公開市場委員会での利上げ織り込み確率が12.8%から34.2%へ上昇し、日米とも金融政策の織り込みが引き締め方向へ反転しています。指数の下落幅は小さいものの、内部では資金がグロースからバリューへ大きく移動しました。現時点のスタンスはリスク中立、確信度は中程度です。
本資料は情報提供のみを目的とし、投資勧誘・投資助言を行うものではありません。投資判断は読者ご自身の責任で行ってください。なお、本レポートは作成時点のスナップショットであり、公開後の株価・決算・ニュースの変化を反映しません。
原油急騰を起点に、日米の市場は「利下げを待つ相場」から「利上げを警戒する相場」へと織り込みを入れ替えました。
0. 結論
供給ショックを起点に日米とも「利下げ期待」から「利上げリスク」への再プライシングが進んだ週。指数の下落幅は小さいが、内部ではバリューへの急速なローテーションと需給の転換が同時に起きている。景気は堅調でリスク資産が崩れる局面ではない一方、米国株のバリュエーションは歴史的極値にあり上値追いもできない。方向は7月28-29日のFOMCと7月30-31日の日銀会合が決める。
- 景気局面
- 拡大
- バリュエーション
- 割高
- 政策
- 据え置き(3.625%)
- S&P500
- 7,411.98 ・予想PER 22.5倍
失業率4.2%・新規失業保険申請187,000件と労働市場は堅調で景気は拡大局面にある。FF誘導目標は3.50〜3.75%で据え置きだが6月SEPの2026年末中央値3.8%は年内1回の追加利上げを示唆しており、方向はタカ派バイアス。CAPE41.37倍は145年の分布で99.0パーセンタイルに位置し、バリュエーションは歴史的極値。
- 景気局面
- 拡大
- バリュエーション
- 適正
- 政策
- 引き締め(1%)
- 日経平均株価
- 64,611.15
実質GDPは2026年Q1に年率+1.8%、日銀短観の大企業製造業DIは+22へ改善し拡大局面。日銀は6月16日に誘導水準を1.0%程度へ引き上げ済みで、物価上振れリスクを声明に明記しており引き締め方向。東証プライムの加重平均PERは20.4倍、益回りと10年国債利回りの差は2.13ポイントを確保しておりバリュエーションは妥当圏。
スタンス要約 — 両側のリスクが同時に拡大した結果としての中立
今週の日米市場は、原油の急騰を起点に「利下げを待つ相場」から「利上げを警戒する相場」へと、織り込みの向きが入れ替わりました。7月29日のFOMCで利上げが決まると見る確率は34.2%まで上昇し、据え置きが65.8%、利下げは0.0%となっています。1週間前の7月17日時点では利上げ確率が12.8%でしたので、わずか5営業日で21.4ポイントも切り上がったことになります。
現時点では リスク中立(risk_neutral) と見ています。確信度は中程度で、想定する時間軸は1〜3か月です。ただしこれは「穏やかで安定している」という意味の中立ではありません。上振れ側と下振れ側のリスクが同時に大きくなった結果として、どちらにも傾けきれない状態にある、という意味の中立です。
マクロ環境概観 — 景気が強いからインフレが下がらない
米国の景気は堅調です。失業率は6月に4.2%へ低下し、労働参加率は61.5%、平均時給は前年比+3.5%となりました。新規失業保険申請件数は7月18日終了週で187,000件と、前週から22,000件の大幅減です。景気後退の兆候は見当たりません。
その一方で、ICE Brent原油先物9月限は週間で+9.85%上昇し、供給側からの物価押し上げ圧力が強まりました。景気が強いからインフレが下がらず、だから中央銀行が引き締めに傾く、という構図です。これは景気後退を心配する局面ではなく、金融引き締めを心配する局面だと考えています。
注目ポイント — 指数の数字だけを見ると判断を誤ります
S&P500の週間騰落率は-0.61%、TOPIXは+2.35%で日経平均を上回りました。米国株が小幅安、日本株が上昇という結果だけを見ると平穏な週に見えます。しかし中身は大きく動いていて、資金はグロースからバリューへ、そしてハイテクから資源・金融へと明確に移動しました。米国株のCAPE(景気循環調整後PER、過去10年の実質利益の平均で株価を割った指標)は41.37倍と、歴史的にみて極めて高い水準にあります。この点は §4 で詳しく扱います。
スタンスのポイント:今週は原油急騰を起点に、日米とも金融政策の織り込みが引き締め方向へ反転しました。米国の景気指標は堅調で、リスク資産が崩れる局面ではありません。ただし米国株のバリュエーションは歴史的な極値にあり、金利上昇が続けば調整余地は大きくなります。強気にも弱気にも傾けきれないため、現時点ではリスク中立と判断しています。方向を決めるのは来週のFOMCと日銀会合です。
1. このレポートの要点
- 1利下げ期待から利上げ警戒への転換が日米同時に起きた起点はいずれも原油です。米国では中央銀行の利上げ確率が週内に大きく切り上がり、日本でも追加利上げの観測が強まりました。景気が弱いからではなく、供給側の物価上昇圧力が強まったことが理由です。
- 27月23日にピークを打ち、24日に一斉反落した原油・米長期金利・日本株がそろって同じ日に週内の高値をつけ、翌日に崩れました。週の途中で相場の性格が変わった日を特定できる、珍しい週でした。
- 3米国株の指数の弱さは市場全体の崩れではない指数を押し下げたのは時価総額の大きい2つのセクターだけで、残りの大半は指数を上回りました。指数の数字だけを見ると実態を読み違えます。
- 4日米ともバリューが優位でグロースが劣後した金利上昇局面で長期の成長期待が割り引かれるという、教科書どおりの動きです。日本の方が米国よりも動きの強度が高くなっています。
- 5来週は今年屈指のイベント週になる米国の金融政策会合、日本の金融政策決定会合と展望レポート、米国の四半期GDP速報と物価統計が4日間に集中します。今週の均衡がどちらへ崩れるかはここで決まります。
数値で確認すると、利上げ確率は1週間前の7月17日時点で12.8%でしたが、週末には34.2%へ切り上がりました。市場の内部については11のセクターのうち8つがS&P500を上回り、8つが絶対値でもプラスという広がりを保っています。スタイル面では日本のバリューがグロースを週間で2.82ポイント上回り、米国の1.16ポイントより格段に強い状態でした。
2. マクロ経済環境(日米)
米金利は全年限で上昇し、カーブは上方へ平行移動しました
今週の米国債利回りは、期間の長短にかかわらず全体が上がりました。2年債は4.33%で前週末から15ベーシスポイント(0.15%)の上昇、10年債は4.69%で14ベーシスポイントの上昇、30年債は5.16%で10ベーシスポイントの上昇です。
ここで注目したいのは、短い年限ほど上げ幅が大きかったことです。長期金利だけが上がるなら「将来の成長やインフレを織り込んだ」という解釈になりますが、2年債が最も上がったということは、市場が目先の政策金利そのものを上方修正したことを意味します。景気減速を織り込む動きではなく、政策パスの読み替えだと考えています。
政策金利の現状は、FF金利の誘導目標が3.50〜3.75%です。日本では日銀の無担保コールレート翌日物の誘導水準が1.0%程度となっています。日本国債も上昇しており、10年債は2.776%で前週末から6.1ベーシスポイントの上昇、2年債は1.499%で6.3ベーシスポイントの上昇です。なお日本国債の数値は7月23日を基準としています。7月24日分は財務省がまだ公表していないためです。
インフレは米国で高止まり、日本では補助金が数字を押し下げています
米国の物価は落ち着いていません。6月のCPI総合は前年比+3.5%、コアCPI(食品・エネルギーを除く)は+2.6%です。中央銀行がより重視するPCE価格指数は、5月分の総合が前年比+4.1%、コアPCEが+3.4%と、目標の2%を大きく上回ったままです。
家計の見方には変化も出ています。ミシガン大学調査の1年先期待インフレ率は7月速報で4.2%と、6月の4.6%から低下しました。ただし5〜10年先の期待インフレ率は3.3%で前月から横ばい、2024年のレンジ2.8〜3.2%を上回った状態が続いています。短期の期待は和らいでも、長期の期待が下がりきらない点は気がかりです。
日本は様相が異なります。6月の全国CPI総合は前年比+1.7%、生鮮食品を除くコアCPIは+1.6%でした。ここで見落とせないのが、生鮮食品とエネルギーの両方を除くコアコアCPIが+1.7%と、コアCPIを上回っている点です。エネルギーを除いた方が数字が高くなるということは、政府のエネルギー関連支援が表面の物価を押し下げていることを示します。基調的な物価の強さは、コアCPIの数字より一段高いと見ておくのが安全です。
中央銀行は日米とも引き締め方向に傾いています
6月のFOMCはFF誘導目標を3.50〜3.75%に据え置きましたが、声明から緩和バイアスを示唆する文言を削除し、票決は12対0でした。同時に公表された経済見通しも重要です。2026年末のFF金利中央値は3.8%と、3月時点の3.4%から上方修正されました。現行レンジの中央値3.625%を上回るため、年内1回の追加利上げが示唆されたことになります。2026年のコアPCE見通しも3.3%へ引き上げられ、3月時点の2.7%から0.6ポイントの上方修正でした。7月8日に公表された6月の議事要旨には、数名の参加者が誘導目標レンジ引き上げの論拠があるとコメントした記録も残っています。
日本銀行はすでに動いています。6月16日の金融政策決定会合で誘導水準を1.0%程度へ引き上げ、票決は7対1で浅田委員が反対、植田総裁は欠席でした。声明の表現も踏み込んでいます。「原油価格上昇を起点に企業間取引における価格転嫁がやや速いスピードで進んでおり」「消費者物価の基調的な上昇率が2%の物価安定の目標を超えて上振れていくリスクがある」と明記されました。物価が目標を下回るリスクではなく上回るリスクを名指しする表現は、追加利上げの地ならしと読めます。
先々の見通しについては、4月の展望レポートで2026年度のコアCPI見通しが+2.8%(1月時点の+2.7%から上方修正)、実質GDPは+0.5%、2027年度のコアCPI見通しは+2.3%で、1月時点の+1.9%から0.4ポイントの上方修正となっています。成長率を下げながら物価見通しを上げるという、供給ショック時の典型的な改定パターンです。
欧州は追随していません。ECBの預金ファシリティ金利は2.25%で、7月23日の理事会は3つの主要政策金利を据え置き、イングランド銀行のBank Rateは3.75%で、直近の決定は6月18日の据え置き、次回のMPCは7月30日です。引き締め方向への傾きは日米に限られた現象である、という点は押さえておきたいところです。
景気そのものは日米とも堅調です。米国の2026年Q1実質GDPは年率+2.1%(3次推計)で、2025年Q4の+0.5%から加速しました。6月の非農業部門雇用者数は前月比+57千人、就業者総数は158,984千人です。日本もQ1実質GDPが前期比+0.5%、年率+1.8%(2次速報)、日銀短観6月調査の大企業製造業業況判断DIは+22で、3月調査の+17から5ポイント改善(先行きは+17と5ポイント悪化)となりました。
関税制度が切り替わり、物価見通しの不確実性が増しました
今週、米国の輸入関税に大きな節目がありました。米国は2026年2月20日署名・2月25日官報公示の布告11012により、1974年通商法122条に基づく一律10%の暫定輸入サーチャージを導入していました。そして布告11012は「2026年2月24日午前0時1分以降に消費のため輸入申告される物品に適用し、2026年7月24日午前0時1分まで効力を有する」と明記しており、対象週にこの一律10%が失効しました。これに先立ち、大統領令14389によって国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠とする追加関税が終了しています。
置き換えとなる措置も官報で確認できます。USTRは2026年6月5日、強制労働により生産された物品の輸入禁止措置の導入・執行の懈怠に関する通商法301条調査について、決定と措置案を官報公示しました。2026年3月12日に開始した60件の調査が対象です。この措置案は10%を適用する経済圏を名指しで列挙しており、日本はその列挙に含まれないため12.5%の区分に当たります。
ただし、ここから先が確定していません。最終的な発動を定めるNotice of Actionは、2026年7月25日時点で連邦官報に掲載されていません。布告11012そのものを延長・修正・終了させる文書も、2026年2月26日から7月25日までの連邦官報には存在しません。
さらに厄介なのが除外品目です。122条の除外規定と301条措置案の除外提案は範囲が異なります。122条は医薬品・電子機器・自動車および部品・航空宇宙製品・USMCA特恵のカナダ/メキシコ産品・CAFTA-DR繊維をカテゴリー名で明示的に除外していたのに対し、301条の附属書は機能的な記述にとどまり、これらを名指ししていません。税率だけでなく課税の対象範囲そのものが入れ替わるため、実効的な負担がどう変わるかは品目ごとに方向が異なります。
なお、7月23日にはカナダの自動車・乳製品・アルコール飲料に関する大統領布告3本が官報公示され、附属書IIに定めるカナダ産特定品目へ追加50%の従価関税が課されますが、発効は8月19日です。こちらはカナダ産の3品目カテゴリーに限定されており、課税対象の広さが桁違いに小さいため、上記の一律関税とは別の話として扱う必要があります。
一律10%は2月24日から7月24日まで有効でしたので、6月のCPI総合+3.5%にも7月分の大半にもすでに反映済みです。影響が出るのは8月分以降ですが、置き換えの有無・税率の変化・除外範囲の入れ替わりという3つの要素が同時に動くため、正味でどちらに効くかは現時点で判定できません。方向を断定できないこと自体が、今の結論です。
この章のポイント:米金利は2年債が15ベーシスポイント上昇と最も大きく動き、市場が目先の政策金利そのものを読み替えたことを示しました。米国のインフレはPCE総合が前年比+4.1%と高止まりし、6月のFOMC経済見通しでは2026年末のFF金利中央値が3.8%へ引き上げられて年内1回の追加利上げが示唆されています。日銀も物価が目標を上回るリスクを声明に明記しました。関税制度の切り替えは、8月以降の物価の方向を読みにくくしています。
3. 為替・コモディティ
原油は7月23日にピークを打ち、24日に反落しました
今週の主役は原油です。ICE Brent原油先物9月限は7月17日に88.10ドルでしたが、7月24日には96.78ドルへ上昇し、1週間で8.68ドル・+9.85%の値上がりとなりました。ただし一本調子の上昇ではありません。週の中では7月23日に100.69ドルまで駆け上がり、そこから24日にかけて反落しています。
米国産のWTIも同じ形です。NYMEX WTI原油先物9月限は米国の当週初日である7月20日に82.48ドルで始まり、7月24日の清算値は89.31ドル、前日比では2.88ドルの下落となりました。週間では+8.28%の上昇で、週内は7月23日に92.19ドルまで上げた後の反落です。
なお、WTIの週間騰落は7月20日を起点としています。Brentが7月17日起点であるのと基準が異なるのは、取引所が公表する清算値の履歴が直近5営業日分に限られており、7月17日の値を実測で取得できなかったためです。前日比から逆算する方法は推計に当たるため採用していません。参考までに、米エネルギー情報局が公表するWTIスポット価格は7月20日時点で84.38ドル、6月30日の70.56ドルから+19.6%、2025年末の57.26ドルの約1.5倍という水準です。こちらは公表が数日遅れるため、週末の水準は先物で見ています。
金は違う動きをしました。ロンドン金価格(PMオークション)は7月24日に1トロイオンス4,067.30ドル、週内は7月22日に4,155.10ドルの高値をつけています。週間では上昇したものの、年初来では下落した状態が続いています。インフレ全般への懸念が高まっているなら金はもっと買われるはずですので、今週の金利上昇はエネルギーという特定の供給要因によるものであって、インフレ全般の再燃を織り込んだものではない可能性を示しています。この読み方は §6 のシナリオ設計にも効いてきます。
円安は40年ぶりの水準圏で、日銀への圧力になっています
ドル円は7月24日の東京市場17時時点で1ドル=163円76〜78銭、週間では+0.92%の円安ドル高で、7月17日17時の162円28〜29銭から水準を切り上げました。
円安は輸出企業にとって追い風です。海外で稼いだ利益を円に換算する際の金額が増えるためです。ただし同時に、輸入する原油や食料の価格を押し上げます。原油が上がっているところに円安が重なると、日本の輸入物価は二重に押し上げられ、日銀が正常化を急ぐ理由が増えることになります。円安が株高要因であると同時に利上げ要因でもあるという両面性が、今の日本市場の複雑さの根っこにあります。
米国の当局も日本の為替と金融政策に言及しました。米財務省は7月23日に半期為替報告書を公表し、2025年12月までの4四半期において主要貿易相手国で為替操作を行った国はないと結論したうえで、日本を含む10の経済圏を監視リストに残しました。日銀の政策については、日銀が2025年1月と12月に利上げしたと記述したうえで「金融政策の正常化はインフレ期待のアンカーと過度な為替変動の抑制に資する」と評価しています。これは利上げを要求したのではなく、正常化の効果を評価した表現です。報道では強い要求として伝えられた面もありますが、原文の強度はここまでにとどまります。
この章のポイント:原油は週間で+9.85%上昇しましたが、7月23日にピークを打って24日には反落しており、週の後半で相場の性格が変わりました。金が週間上昇にもかかわらず年初来ではマイナス圏にとどまっている点は、今回の金利上昇がインフレ全般ではなくエネルギー固有の供給要因を映していることを示唆します。ドル円は163円台の円安水準で、輸出企業への追い風と日銀への利上げ圧力を同時に生んでいます。
4. 株式市場の現在地
指数は小幅安、しかし日米で明暗が分かれました
まず水準を確認します。S&P500は7月24日終値で7,411.98ポイント、NASDAQ総合指数は24,975.82ポイント、主力100銘柄で構成するNASDAQ-100は28,128.34ポイントで前日比-1.15%、ダウ工業株30種平均は51,947.25ドル、ラッセル2000は2,930.00ポイントです。日本では日経平均株価が64,611円15銭、TOPIXが4,011.31ポイントで前日比-1.05%、東証グロース市場250指数が686.12ポイントで前日比-1.92%となりました。
週間の騰落を見ると、日米で方向が分かれています。米国はNASDAQ総合が-2.13%と主要4指数で最も大きく下げ、NASDAQ-100は-1.62%、ラッセル2000は-1.09%、ダウは-0.38%でした。日本は日経平均が+0.73%とプラスを維持しています。
ここで注意が必要なのは、日次と週次を混同しないことです。日経平均は7月24日に前日比-2.73%、金額にして1,811円45銭の急落となりました。この数字だけを見ると日本株が崩れたように見えますが、週の初めからの累計では上昇を保っています。週前半に大きく上げた分を、金曜日に吐き出したという形です。
なお、日本市場の7月24日終値は日本時間15時のものです。米国市場の7月24日終値は日本時間の翌朝に確定しますので、日本株の金曜日の動きは米国の木曜日を受けたものであり、米国の金曜日はまだ織り込んでいません。日米を並べて語るときは、この13時間の時差を意識しておく必要があります。また今週の日本市場は7月20日が海の日で休場でしたので、実質4営業日です。米国の5営業日と単純に比べられない点も補足しておきます。
年初来では日本の強さが際立ちます。日経平均は年初来+28.35%(2025年大納会終値50,339円48銭が基準)、TOPIXは+17.67%です。米国はS&P500が+8.28%、NASDAQ総合が+7.46%、NASDAQ-100が+11.40%とNASDAQ総合を上回り、ダウが+8.08%、ラッセル2000が+18.05%と米主要指数のなかで最大の上昇率となっています。一方で東証グロース市場250指数は年初来+1.62%にとどまり、小型グロースの出遅れが目立ちます。
52週レンジの中での位置も見ておきます。日経平均は7月に入って最高値圏から調整しており、S&P500も直近高値から距離があります。詳細はレンジ表示で確認できます。
バリュエーションは米国が歴史的な極値にあります
ここが今週いちばん重要な論点です。米国株の割高さは、水準の問題というより歴史的な位置の問題になっています。
S&P500のCAPEの全期間平均は17.77倍(1881年1月から2026年7月までの1,747か月、中央値は16.61倍)、1971年以降の平均は22.03倍です。これに対して現在は41.37倍ですから、長期平均のおよそ2.3倍にあります。現在のCAPE 41.37倍は1881年以降145年の分布において99.0パーセンタイルに位置し、直近12か月のレンジは37.03〜41.37倍です。145年のうち上位1%という位置づけになります。
予想利益ベースでも、S&P500(SPY)の予想PERは22.50倍(2026年6月30日基準)です。米10年債利回りが4.69%まで上がった今、株式の益回りと国債利回りの差は薄くなっています。
なお、S&P500の予想PERを週次で追える一次データは現在存在しません。指数の算出元が2026年1月30日をもって関連ファイルの一般公開を終了したためです。本レポートではCAPEを主軸に据え、予想PERは月次更新のファクトシートの値を補助的に使っています。
日本は対照的です。東証プライム市場の加重平均PERは2026年6月末時点で20.4倍、加重平均PBRは1.8倍です。加重平均PER20.4倍の逆数である益回り4.90%から日本10年国債利回り2.776%を差し引いたイールドスプレッドは2.13ポイントを確保しています。イールドスプレッドは、株式が国債に対してどれだけ上乗せの利回りを持っているかを示す指標で、これが薄くなるほど株式の割安感は乏しくなります。日本にはまだ2ポイント強の余裕がある、という読み方になります。
ボラティリティは日本の方が明確に高い状態です
VIX指数は7月24日終値で18.58と、落ち着いた水準です。しかし日本は違います。日経平均ボラティリティー・インデックスは7月24日15時50分時点で32.88、前日比-1.94・-5.57%でしたが、当日は始値38.71・高値40.47と40台をつける場面がありました。
VIXと日経VIは算出対象が異なるため単純比較はできませんが、それでも14ポイント以上の開きは大きく、日本市場の方が振れ幅への警戒が強いことを示しています。米国でもハイテクに限れば警戒は高く、NASDAQ-100を対象とするボラティリティ指数はVIXを約10ポイント上回る水準にあります。指数全体は穏やかでも、ハイテクと日本株には別の緊張があるという構図です。
需給は明確に転換の兆候を見せました
日本の需給指標が、今週いちばんわかりやすく変化しました。東証の空売り比率は7月24日に43.8%(価格規制ありが31.1%、規制なしが12.7%)へ上昇し、週初7月21日の31.9%から急伸しています。
裁定取引の残高も動きました。裁定取引の現物売りポジションは7月22日現在で3,999万株と、7月15日現在の1,386万株から1週間で約2.9倍に膨らみ、現物買いポジションは6億6,568万株から6億5,242万株へ1,327万株・-1.99%の減少となりました。買い建てが減って売り建てが3倍近くに増えたわけですから、先物売り・現物買いの裁定が巻き戻され、逆方向のポジションが積み上がったと読めます。空売り比率の上昇とも整合的です。
信用取引の残高は、二市場の信用倍率が2026年7月17日申込み現在で9.85倍となっています。信用倍率は買い残を売り残で割った値で、高いほど将来の売り圧力が積み上がっていることを意味します。
売買代金は縮小しました。東証全体(外国株を含む概算)の売買代金は7月24日に9兆1,950億円、7月21日から24日の日平均は10兆0,916億円で、直前営業日の7月17日の12兆1,353億円からは縮小しています。
投資主体別では、海外投資家が7月第3週(7月13〜17日)の東証プライム現物で2,587億円の売り越しとなり、前週の5,172億円買い越しから転じました。一方で個人投資家は3,729億円の買い越しです。ただしこのデータは7月13〜17日週のもので、本レポートが対象とする7月21〜24日週の分は7月30日公表予定です。1週間前の状況である点にご注意ください。
米国でも資金は株式から抜けています。米国の株式ミューチュアルファンドは7月15日終了週に181.0億ドルの資金流出、直近4週(6月24日〜7月15日終了週)では合計741.6億ドルの流出です。なお同じ調査機関はETFを含めた合算系列も公表しており、そちらでは流出額がはるかに小さくなります。ETFへの資金流入がミューチュアルファンドからの流出を大きく相殺しているためで、投資家が株式から降りたというより、保有の器を乗り換えていると読む方が実態に近そうです。
この章のポイント:指数の下落幅は小さいものの、市場の内部は大きく動きました。米国株のCAPEは41.37倍と145年の分布で上位1%に位置し、金利上昇が続けば調整余地が大きい水準です。日本はイールドスプレッドが2.13ポイントあり相対的に余裕がありますが、日経VIが一時40台をつけ、空売り比率が43.8%へ急伸するなど需給面では警戒が強まっています。日次の急落と週次のプラスを混同しないことが、今週の相場を読むうえで最も重要です。
5. セクター・テーマのローテーション
| 週間 | 年初来 | |
|---|---|---|
| 米エネルギー | 3.36 | 33.35 |
| 米情報技術 | 0.17 | 22.16 |
| 米コミュニケーション | -3.93 | -9.7 |
| 米一般消費財 | -5.22 | -8.37 |
| 日本の銀行業 | 7.93 | 48.61 |
| 日本の電気機器 | 1.79 | 31 |
米国の指数を押し下げたのは、11セクターのうち2つだけでした
これが今週最大の読み替えポイントです。S&P500に連動するETF(SPY)の週間騰落率は-0.59%でしたが、GICS11セクターのうち8セクターがSPYを上回り、8セクターが絶対値でもプラスでした。
指数を押し下げたのは時価総額の大きい2セクターです。一般消費財(XLY)は週間-5.22%でS&P500比-4.63ポイント、コミュニケーション(XLC)は-3.93%でS&P500比-3.34ポイントとなりました。しかも下落は特定の1日に集中しています。XLYは7月23日に前日比-4.61%(7月22日終値114.02から7月23日終値108.76へ)、XLCは同じ7月23日に-3.50%(109.20から105.38へ)で、同日のSPYは-1.24%でした。
年初来でも、この2セクターの劣後は続いています。XLYの年初来は-8.37%でS&P500比-16.73ポイント、XLCの年初来は-9.70%でS&P500比-18.06ポイントです。ちなみにSPYの年初来は+8.36%となっています。
エネルギーが日米で同時に買われました
原油高の直接の受益セクターが、日米そろって上位に来ています。米国のエネルギー(XLE)は週間+3.36%でS&P500比+3.95ポイントと、11セクター中1位でした。日本では鉱業が週間+10.06%でTOPIX比+7.71ポイントと、33業種の中で最も上昇しています。
エネルギー・資源セクターの上昇は日米の独立した公式データで相互に裏付けられ、米国はXLEが11セクター中1位、日本はJPX公式の東証業種別指数で確認できます。データの出どころが異なる2つの市場で同じ方向が出ているということは、個別の材料ではなく共通の要因(原油)が効いていることの傍証になります。
エネルギーはバリュエーションも魅力的です。XLEの予想PERは11.95倍(2026年6月30日基準)で、S&P500の22.50倍のおよそ半分にとどまります。年初来では+33.35%でS&P500比+24.99ポイントと、優位が続いています。
日本の資源関連も年初来で突出しています。非鉄金属の年初来騰落率は+57.48%でTOPIX比+39.81ポイントです。
金融は日本だけが突出しました
日本の銀行業は週間+7.93%でTOPIX比+5.58ポイントと、鉱業に次ぐ上昇でした。年初来では+48.61%でTOPIX比+30.94ポイントに達しています。
一方で米国の金融(XLF)は週間+0.09%にとどまりました。同じ金利上昇局面でも、日本の銀行だけが大きく買われたことになります。これは日銀の追加利上げ観測が、貸出金利の上昇と預貸スプレッド(貸出金利と預金金利の差)の改善に直結すると見られているためだと考えています。米国はすでに高金利が長く続いており、追加の利上げが利ざやを押し上げる余地が日本ほど大きくない、という違いです。
ハイテクは指数を上回ったものの、中身は荒い動きでした
米国の情報技術(XLK)は週間+0.17%でS&P500比+0.76ポイントと、指数は上回りました。年初来では+22.16%でS&P500比+13.80ポイントと、依然として最も強いセクターの一つです。ただしXLKの予想PERは30.03倍でS&P500の22.50倍を大きく上回り、金利上昇への感応度が高い点は変わりません。
半導体は週の中で極端に振れました。フィラデルフィア半導体指数(SOX)の週間騰落率は+1.24%(7月24日終値11,818.88)ですが、週内は7月21日に+5.21%、7月24日に-4.25%と極端に荒い動きでした。日次の経路は7月17日の11,673.89から7月20日+0.60%、7月21日+5.21%と続いたあと、後半に失速しています。
ここで一つ注意点があります。報道では「大手IT企業が7月22日に設備投資計画を引き上げたことで半導体株が売られた」という説明が見られましたが、この説明は指数を算出しているNasdaqの公式データと時系列が一致しません。SOXは7月22日には上昇しており、週内最大の下落は2営業日後の7月24日でした。本レポートでは、この因果関係については断定を避けます。値動きの事実と、報道が語る理由は分けて扱うべきだと考えています。
より長い目で見ると調整局面にあります。SOXの直近1か月騰落率は-12.18%で、日本の電気機器(6月末比-10.60%)と同方向です。週次ではプラス、月次では2桁のマイナスという形ですので、どちらの期間で見るかによって印象が正反対になります。
日本の電気機器も同様です。電気機器は週間+1.79%でTOPIX比-0.56ポイントと指数に届かず、年初来では+31.00%でTOPIX比+13.33ポイントという位置です。バリュエーションは高く、電気機器の加重平均PERは50.3倍・加重平均PBRは4.2倍(2026年6月末、連結ベース)で、プライム市場総合の20.4倍・1.8倍(製造業28.9倍に対し非製造業15.4倍)を大きく上回っています。
原油高の直接の受益であるエネルギーと資源が、日米そろって上位に来ました。米国のエネルギーは11セクター中で最も上昇し、日本でも鉱業が33業種の首位となっています。
日本の銀行業は、金利上昇が貸出金利と預貸スプレッドの改善につながるとの見方から買われました。年初来の上昇率は指数を30ポイント以上引き離しています。
共通するのは、足元の利益が金利や資源価格の上昇によって直接押し上げられる構造にあることです。遠い将来の成長期待に依存しないため、割引率が上がっても評価が削られにくくなります。
バリュエーションが相対的に低い点も選好された理由だと考えています。エネルギーの予想PERは指数のおよそ半分にとどまっており、金利上昇局面での下押し余地が小さい位置にあります。
金利上昇に弱い領域から、一貫して資金が抜けました。米国では一般消費財が最も大きく下げ、実質購買力の圧迫と金利上昇という二重の逆風を受けています。
コミュニケーションも指数を大きく下回りました。この2つのセクターだけで指数全体をマイナス圏へ引き下げており、下落は7月23日の単日に集中しています。
日本では小型グロースが指数の上昇に逆行して下落しました。年初来でも出遅れたままで、金利上昇局面での脆弱さが続いています。
いずれも利益の実現時期が先にあるため、割引率が上がると現在価値が削られやすいという共通点があります。半導体も週次ではプラスながら、月次では2桁の下落となりました。
スタイルは日米ともバリュー優位、日本の方が強度が高い状態です
米国のグロース対バリューは週間-1.16ポイント(S&P500グロース連動ETFが-1.07%、バリュー連動ETFが+0.09%)でバリュー優位でした。年初来でも-1.34ポイントでバリューが上回り、週・1か月・3か月・年初来のすべての期間で方向が一貫しています。
日本はこれをさらに上回る強度です。日本のバリュー対グロースは週間+2.82ポイント(TOPIXバリュー+3.68%に対しTOPIXグロース+0.86%)でバリュー優位、米国の1.16ポイントより格段に強い状態でした。TOPIXが日経平均を上回ったのも、この構成の違いが表れたものです。
小型グロースは逆行しました。東証グロース市場250指数は週間-1.30%(7月17日終値695.17から7月24日終値686.12へ)で、日米主要指数のなかで唯一マイナス圏の年初来推移が続く状態です。TOPIXが上昇するなかでの逆行安であり、小型グロースから大型バリューへの資金移動を示しています。
サイズの軸では方向が食い違っている点も補足します。米国の大型対小型は年初来-9.92ポイント(S&P500連動ETF+8.36%に対しラッセル2000連動ETF+18.28%)で小型優位ですが、直近1か月は+2.64ポイントと大型優位に反転しています。年初来では小型が強いのに直近では大型が強い、というねじれです。単純な「リスク回避」では説明がつかないため、スタイル(バリューかグロースか)の軸で見た方が今週の資金の動きは理解しやすいと考えています。
なお、週間の比較についてひとつ補足します。TOPIXの週間騰落率は+2.35%で、7月20日が海の日で休場のため4営業日の週でした。日本の業種別株価指数の週間騰落率は起点が2026-07-17終値、終点が2026-07-24終値で統一されています。TOPIXの年初来騰落率は+17.67%(2025年末3,408.97から7月24日終値4,011.31へ)で、業種別の年初来比較の基準となります。米国が5営業日であるのに対し日本は4営業日ですので、上昇率をそのまま並べる際にはこの非対称性を頭に置いておく必要があります。
| 対象 | 地域 | 区分 | スタンス | 根拠 |
|---|---|---|---|---|
| エネルギー(米国) | 米国 | セクター | オーバーウェイト | 週間+3.36%で11セクター中1位。予想PER11.95倍とS&P500の22.50倍に対して大幅に割安で、原油の供給ショックが直接の追い風になる。年初来でもS&P500比+24.99ポイントと優位が継続している。 |
| 銀行業(日本) | 日本 | セクター | オーバーウェイト | 週間+7.93%でTOPIX比+5.58ポイント、年初来では+48.61%でTOPIX比+30.94ポイントと突出している。日銀の追加利上げ観測が貸出金利と預貸スプレッドの改善期待に直結する構図で、政策方向との整合性が最も高い。 |
| 鉱業・非鉄金属(日本) | 日本 | セクター | オーバーウェイト | 鉱業は週間+10.06%で33業種中1位、非鉄金属は年初来+57.48%でTOPIX比+39.81ポイント。米国のエネルギーセクターと日米独立の公式データで同方向が確認でき、供給ショックの受益が地域をまたいで裏付けられている。 |
| 一般消費財(米国) | 米国 | セクター | アンダーウェイト | 週間-5.22%でS&P500比-4.63ポイントと11セクター中最下位。年初来でも-8.37%でS&P500比-16.73ポイントと劣後が続く。金利上昇と原油高による実質購買力の圧迫が二重の逆風になり、7月23日には単日で-4.61%の急落を記録した。 |
| 情報技術(米国) | 米国 | セクター | 中立 | 週間+0.17%とS&P500を上回ったが、予想PER30.03倍はS&P500の22.50倍を大きく超えており金利上昇への感応度が高い。半導体指数は週間+1.24%とプラスの一方で直近1ヶ月は-12.18%と調整局面にあり、週次と月次で像が反転するため方向を傾けない。 |
| バリュー(日本株スタイル) | 日本 | スタイル | オーバーウェイト | 週間でバリューがグロースを2.82ポイント上回り、米国の1.16ポイントを大きく超える強度でローテーションが進んでいる。TOPIXが週間+2.35%と日経平均の+0.73%を上回ったことにも同じ構図が表れており、金利上昇局面との整合性が高い。 |
| 小型グロース(日本株スタイル) | 日本 | スタイル | アンダーウェイト | 東証グロース市場250指数は週間-1.30%とTOPIXが上昇するなかで逆行安となり、年初来でも+1.62%にとどまる。金利上昇はデュレーションの長い小型グロースに最も不利に働き、大型バリューへの資金移動の裏側に位置している。 |
上の一覧では、原油という共通の要因が効くエネルギー・資源を日米とも強めに、金利上昇に弱い小型グロースと実質購買力が削られる一般消費財を弱めに置いています。情報技術を中立としたのは、週次と月次で像が反転しており、方向を断定できる材料が揃っていないためです。
この章のポイント:今週のセクター動向は、原油高の受益(エネルギー・資源)と金利上昇の受益(日本の銀行)に資金が集まり、金利上昇に弱い小型グロースと実質購買力が削られる一般消費財から資金が抜けるという、一貫した構図でした。米国の指数下落は11セクター中2つに起因するもので、市場全体の崩れではありません。半導体については、報道が語る因果と公式データの時系列が一致しないため、本レポートでは値動きの事実のみを扱っています。
6. シナリオと確率
| シナリオ | 確率 | 想定 | 市場含意 |
|---|---|---|---|
| ベース | 50% | FOMC・日銀とも据え置きで波乱なく通過する。原油は90ドル台で高止まりし、7月30日発表の6月コアPCEはナウキャストの前年比3.33%近辺に着地する。金利は現水準を挟んで推移し、株式はレンジ内で内部のローテーションが続く。 |
|
| 強気 | 20% | 中東情勢の沈静化で原油が85ドルを割り込み、6月コアPCEがナウキャストを下回る。FOMCが中立的な表現にとどまり利上げ織り込みが15%未満へ後退する。ミシガン大の1年先期待インフレが7月速報で4.2%へ低下している点が追い風となる。 |
|
| 弱気 | 30% | 原油が100ドルを超えて定着するか、6月コアPCEがナウキャストを0.2ポイント以上上回る。FOMCがタカ派に傾き利上げ織り込みが50%を超える。CAPE99.0パーセンタイルの水準からマルチプル圧縮が始まる。日本では日銀が7月31日の展望レポートで物価見通しを再度上方修正し、10月利上げが本格的に織り込まれる。 |
|
分岐条件は絶対水準ではなく、予想との差で見ます
シナリオを考えるうえで大切なのは、「インフレ率が何%なら弱気か」という絶対水準ではなく、市場がすでに織り込んでいる数字と比べてどうかという視点です。市場が3.3%を織り込んでいるときに3.3%が出ても相場は動きませんが、3.5%が出れば下落します。
そこで、来週発表される指標の事前予測を基準として置いています。6月のコアPCE(7月30日発表予定)の予測値は前年比+3.33%、前月比+0.19%、PCE総合の予測値は前年比+3.65%、前月比-0.12%です。7月分については、コアCPIの予測が前年比+2.52%、前月比+0.21%、CPI総合の予測が前年比+3.37%、前月比+0.04%となっています。いずれも地区連銀が公表している推計値です。
景気については、アトランタ連銀が推計する2026年Q2の実質GDP成長率は+1.7%(7月17日更新、次回更新は7月27日)です。7月30日に発表される速報値がこの近辺であれば、景気に対する見方は変わらないと考えています。
強気シナリオを20%と控えめに置いたのは、原油の反落と物価の下振れが同時に起きる必要があるためです。逆に弱気シナリオを30%とやや高めに置いたのは、利上げ確率がすでに34.2%まで上がっており、市場自身がこのリスクを相応に価格に織り込んでいることを踏まえたものです。中央シナリオの50%は、来週の2つの中央銀行会合がいずれも据え置きで通過し、相場がレンジ内で内部のローテーションを続ける展開を想定しています。
この章のポイント:シナリオの分岐条件は、絶対水準ではなく市場予想との差で設計しています。6月コアPCEの予測は前年比+3.33%で、これを0.2ポイント以上上回れば弱気シナリオへ、下回れば強気シナリオへ傾きます。弱気シナリオの確率を30%とやや高めに置いたのは、利上げ確率がすでに34.2%まで上昇しており、市場がこのリスクを織り込み始めているためです。
7. リスク要因
バリュエーションが最大の脆弱性です
米国株のCAPEが145年の分布で99.0パーセンタイルに位置するという事実は、それ自体が下落を予告するものではありません。割高な状態は何年も続くことがあります。ただし、何かが起きたときの下げ幅を大きくするという意味で、環境の脆さを示しています。金利が想定以上に上昇した場合、利益成長ではなく評価倍率の縮小によって株価が下がる余地が大きい状態です。
政策リスクは方向が読めないことそのものです
関税については §2 で整理したとおりですが、リスクとしての本質は「上がるか下がるか」ではなく「わからない」ことにあります。一律10%の暫定関税を延長・修正・終了させる文書が官報に存在しない状態で、置き換えとされる措置の最終的な内容も確定していません。加えて122条と301条では除外される品目の範囲が一致せず、122条がカテゴリー名で明示していた医薬品・電子機器・自動車などを301条の附属書は名指ししていないため、品目ごとに負担の変化が異なります。
この不確実性は、金融政策の判断も難しくします。エネルギー由来の物価上昇圧力と、関税由来の(方向不明の)価格変動が同時に走るため、中央銀行が「供給要因によるインフレ」をひとまとめに語ることが難しくなるためです。7月29日のFOMCで、この点にどう言及するかは注目したいところです。
需給の巻き戻しは、下落局面で下げを加速させます
§4 で見たとおり、日本の裁定取引の現物売りポジションが1週間で約2.9倍に膨らんだ状態です。裁定の売り建ては、相場が上昇に転じれば買い戻しによって上昇を加速させますが、下落局面では新規の売りが積み上がりやすく、下げを増幅させる側に働きます。空売り比率の急上昇と合わせて、日本市場の値動きが荒くなりやすい地合いになっていると見ています。
地政学リスクは原油を通じて相場に直結しています
今週の起点となった原油上昇は、中東情勢を受けたものです。供給の混乱が続けば、Brentが100ドルを超えて定着する展開も現実味を帯びます。その場合、エネルギーセクターには追い風となる一方、消費関連には逆風、そして中央銀行には引き締め圧力という形で、相場全体に波及します。原油は今の市場において、単なる商品市況ではなく金融政策の入力変数になっているという認識が必要です。
主要リスクのポイント:最も警戒すべきは、米国株のバリュエーションが145年の分布で上位1%にある状態で金利上昇が続くことです。これは下落のきっかけを作るものではありませんが、下げ幅を大きくします。関税は方向が読めないこと自体がリスクで、中央銀行が供給要因のインフレを一括りに語れなくなる局面に入りました。日本では裁定売り残が約2.9倍に膨らんでおり、下落局面で値動きが荒くなりやすい地合いです。
8. 注目イベントカレンダー
- 7月28-29日FOMC(米連邦公開市場委員会)
経済見通しの公表回ではありません。7月29日に声明と議長会見が予定されています。利上げの織り込み確率が34.2%まで上昇しているため、据え置きであっても声明の文言と会見の調子が相場を動かします。
- 7月30日米Q2実質GDP速報値・6月PCE価格指数(同時発表)
米東部時間8時30分に同時発表されます。6月コアPCEの事前予測は前年比+3.33%で、これを0.2ポイント以上上回れば弱気シナリオ、下回れば強気シナリオへ傾きます。景気と物価が同じタイミングで判明するため反応が大きくなりやすい日です。
- 7月30日イングランド銀行 金融政策委員会
Bank Rateは3.75%で、直近の決定は6月18日の据え置きでした。欧州が日米の引き締め方向に追随するかどうかを見る材料になります。
- 7月30-31日日銀 金融政策決定会合(7月31日に展望レポート・総裁会見)
政策金利は据え置きが見込まれます。注目は展望レポートの物価見通しで、4月時点の2027年度コアCPI見通し+2.3%がさらに上方修正されるかどうかが、次の利上げ時期を読む最大の材料になります。
- 7月31日米雇用コスト指数(Q2)・東京都区部CPI
米国の賃金コストと、日本の物価の先行指標が同じ日に出ます。賃金起点のインフレ圧力が残っているかを確認する材料です。
4日間に主要イベントが集中します
来週は、今回のレポートで扱った論点のほとんどが一度に試される週です。
まずFOMCが7月28〜29日に開催されます。経済見通し(SEP)の公表回ではなく、7月29日に声明と議長会見が予定されています。利上げ確率が34.2%まで上がっている状況ですから、据え置きだったとしても声明の文言と会見の調子が相場を動かします。
翌日には米国の重要指標が重なります。7月30日8時30分(米東部時間)に、Q2の実質GDP速報値と6月分の個人所得・支出(PCE価格指数)が同時に発表されます。景気の強さと物価の両方が同じタイミングで判明するため、この日の反応は大きくなりやすいと考えています。同日には英イングランド銀行の政策決定も控えています。
日本では金融政策決定会合が7月30〜31日に開催され、7月31日に展望レポート(基本的見解)の公表と総裁の定例記者会見が行われます。政策金利そのものは据え置きが見込まれていますが、注目は展望レポートの物価見通しです。4月時点で2027年度のコアCPI見通しは+2.3%でしたので、ここがさらに上方修正されるかどうかが、次の利上げ時期を読むうえで最大の材料になります。
この章のポイント:来週は7月28〜29日のFOMC、7月30日の米Q2 GDP速報と6月PCEの同時発表、7月30〜31日の日銀会合と展望レポートが4日間に集中します。本レポートで整理した論点のほぼすべてがこの期間に判定されるため、週明けの段階でシナリオごとの対応方針を決めておくことが有効だと考えています。
9. スタンスのまとめと点検リスト
| 対象 | 地域 | 区分 | スタンス | 根拠 |
|---|---|---|---|---|
| エネルギー(米国) | 米国 | セクター | オーバーウェイト | 週間+3.36%で11セクター中1位。予想PER11.95倍とS&P500の22.50倍に対して大幅に割安で、原油の供給ショックが直接の追い風になる。年初来でもS&P500比+24.99ポイントと優位が継続している。 |
| 銀行業(日本) | 日本 | セクター | オーバーウェイト | 週間+7.93%でTOPIX比+5.58ポイント、年初来では+48.61%でTOPIX比+30.94ポイントと突出している。日銀の追加利上げ観測が貸出金利と預貸スプレッドの改善期待に直結する構図で、政策方向との整合性が最も高い。 |
| 鉱業・非鉄金属(日本) | 日本 | セクター | オーバーウェイト | 鉱業は週間+10.06%で33業種中1位、非鉄金属は年初来+57.48%でTOPIX比+39.81ポイント。米国のエネルギーセクターと日米独立の公式データで同方向が確認でき、供給ショックの受益が地域をまたいで裏付けられている。 |
| 一般消費財(米国) | 米国 | セクター | アンダーウェイト | 週間-5.22%でS&P500比-4.63ポイントと11セクター中最下位。年初来でも-8.37%でS&P500比-16.73ポイントと劣後が続く。金利上昇と原油高による実質購買力の圧迫が二重の逆風になり、7月23日には単日で-4.61%の急落を記録した。 |
| 情報技術(米国) | 米国 | セクター | 中立 | 週間+0.17%とS&P500を上回ったが、予想PER30.03倍はS&P500の22.50倍を大きく超えており金利上昇への感応度が高い。半導体指数は週間+1.24%とプラスの一方で直近1ヶ月は-12.18%と調整局面にあり、週次と月次で像が反転するため方向を傾けない。 |
| バリュー(日本株スタイル) | 日本 | スタイル | オーバーウェイト | 週間でバリューがグロースを2.82ポイント上回り、米国の1.16ポイントを大きく超える強度でローテーションが進んでいる。TOPIXが週間+2.35%と日経平均の+0.73%を上回ったことにも同じ構図が表れており、金利上昇局面との整合性が高い。 |
| 小型グロース(日本株スタイル) | 日本 | スタイル | アンダーウェイト | 東証グロース市場250指数は週間-1.30%とTOPIXが上昇するなかで逆行安となり、年初来でも+1.62%にとどまる。金利上昇はデュレーションの長い小型グロースに最も不利に働き、大型バリューへの資金移動の裏側に位置している。 |
判断が変わる条件を、あらかじめ決めておきます
投資判断で最も避けたいのは、相場が動いてから理由を後付けすることです。そこで、どの数字がどうなったら見方を変えるのかを先に決めておきます。
- FOMCの利上げ織り込み確率が50%を超えて定着しないか(現状34.2%、週次で確認)
- Brent原油が105ドルを超えて定着しないか(現状96.78ドル、日次で確認)
- 米10年国債利回りが4.90%を超えて定着しないか(現状4.69%、日次で確認)
- 6月コアPCEが予測の前年比3.33%を0.2ポイント以上上回らないか(7月30日発表)
- ドル円が168円を超えないか(現状163円77銭、日次で確認)
- S&P500を上回るセクターが11中5以上を保っているか(現状8セクター、週次で確認)
- 日銀の展望レポートで2027年度コアCPI見通しが据え置かれるか(7月31日公表、現状+2.3%)
確認すべき水準は次のとおりです。FOMCの利上げ織り込み確率は現在34.2%ですが、これが50%を超えて定着したら、リスク中立から弱気へ転換します。Brent原油は現在96.78ドルですが、105ドルを超えて定着した場合はエネルギーの強気度合いを引き上げ、消費関連の弱気度合いを広げます。米10年国債利回りは現在4.69%で、4.90%超えが続けばバリュエーションへの圧力が強まったと判断します。ドル円は163円77銭ですが、168円超えは日銀の対応を前倒しさせる可能性があります。
逆に強気へ転じる条件も決めておきます。6月コアPCEが予測の+3.33%を下回り、かつBrentが85ドルを割り込んで定着した場合には、今回の「利上げリスク」という見立て自体が崩れます。その場合はリスク中立から強気へ切り替えます。
市場の内部については、11セクター中8セクターがS&P500を上回るという今の広がりが、5セクター未満へ縮小した場合には、米国株に対する中立判断を弱気へ引き下げます。指数の下落が2セクター起因にとどまっている、という今週の読み替えが成立しなくなるためです。
スタンス無効化の条件:6月コアPCEが予測の前年比3.33%を0.2ポイント以上上回り、かつ米10年国債利回りが4.90%を超えて定着した場合、リスク中立から弱気へ転換します。逆にBrent原油が85ドルを下回って定着し、FOMCの利上げ織り込み確率が15%未満へ低下した場合は強気へ転換します。また、S&P500を上回るセクターが11中5未満へ減少し市場内部の広がりが失われた場合には、米国株への中立判断を弱気へ引き下げます。
10. 用語集
- CAPE(景気循環調整後PER)
- 過去10年の実質利益の平均で株価を割った指標。単年度の利益変動に左右されにくいため、長期的な割高・割安の判断に使われます。シラーPEとも呼ばれます。
- イールドスプレッド
- 株式の益回り(PERの逆数)から長期国債利回りを差し引いた値。株式が国債に対してどれだけ上乗せの利回りを持つかを示し、値が小さいほど株式の割安感は乏しくなります。
- ベーシスポイント
- 金利の変化を表す単位で、1ベーシスポイントは0.01%です。金利の細かい変動を表現するときに使われます。
- コアCPI・コアコアCPI
- コアCPIは生鮮食品を除く消費者物価指数、コアコアCPIは生鮮食品とエネルギーの両方を除いた指数です。エネルギー価格の変動や補助金の影響を取り除いた基調的な物価の動きを見るために使われます。
- PCE価格指数
- 個人消費支出の価格指数。米連邦準備制度が物価目標の基準として重視している指標で、消費者物価指数(CPI)とは対象範囲や算出方法が異なります。
- 空売り比率
- 売買代金全体に占める空売りの割合。上昇すると、将来の買い戻し需要が積み上がる一方で、下落局面では売り圧力が強い状態を示します。
- 裁定取引の現物ポジション
- 先物と現物の価格差を利用した取引に伴って保有される現物株の残高。買い残が減って売り残が増えると、これまでの取引が巻き戻されていることを意味します。
- 信用倍率
- 信用取引の買い残高を売り残高で割った値。高いほど将来の売り圧力が積み上がっていることを示します。
- バリューとグロース
- バリューは利益や資産に対して株価が割安な銘柄群、グロースは高い成長が期待される銘柄群を指します。金利が上昇する局面では、遠い将来の利益を織り込むグロースの方が不利になりやすい傾向があります。
- ナウキャスト
- 統計の公表前に、すでに得られている関連データから当該統計の値を推計したもの。地区連銀などが公表しており、市場予想の目安として使われます。
- FOMC
- 米連邦公開市場委員会。米国の金融政策を決定する会合で、年8回開催されます。政策金利の誘導目標を決めるほか、年4回は参加者の経済見通しも公表されます。
- 展望レポート
- 日本銀行が年4回公表する「経済・物価情勢の展望」。政策委員による成長率と物価の見通しが示され、金融政策の方向を読むうえで最も重要な資料とされています。